【論文】米国のQALY禁止法案は、障碍者や慢性疾患患者に対して害を及ぼす可能性がある

2024年2月7日、下院は「すべての患者のための医療保護法(Protecting Health Care for All Patients Act of 2023:HR485)」を可決した。この法案では、連邦医療制度における保険適用および支払い決定において、質調整生存年(QALYs)の使用を禁止している1,2)。この法案に対して、著者らは、下院のQALY禁止は、障害者や慢性疾患患者を助けるどころか、害を及ぼす可能性があると主張する。

QALYは、より質の高いレベルで生存期間延長を計測できる、現時点での最善の尺度であるとする。また、QALYは人命の価値の計測ではなく、保健介入による利益の価値に焦点を当てており、あらゆる人の人生における1年の価値は、人種や性別、社会的地位とは無関係性を仮定しており、QALYは平等主義的に設計されていることを強調している。例えば、冠動脈疾患患者に対する冠動脈バイパス移植手術を考える場合、エリートのマラソンランナーであろうと下半身麻痺の患者であろうと、手術を受けるすべての患者における手術の平均的な便益に焦点が当てられるとする。

QALYを用いた分析は、健康増進の価値を明示する方法を提供することで、障害を持つ人々への投資を促進する可能性が高い。QALYが人々の長生きや気分の改善を助ける治療や公衆衛生介入を特定する機会を提供する有益性よりも有害性の方が高い治療を明らかにすることで、患者を保護することもできるとする。

過去の事例(例えばオレゴン州の)が障碍者やがん患者を軽んずるとの誤解に基づくが、これらも体系的な分析によって否定されているとする。

QALYは、人々がより長く、より健康に生きることを助ける治療を、個人の視点ではなく集団の視点から評価するものである。資源の制約の中で、国民の健康を最大限に増進させるという目標のもと、医療介入の有効性と効率性に焦点を当てるために考案された、広く受け入れられている方法を否定するのは賢明ではないとしている。

 

著者のゴールド博士は、保健福祉省の上級政策顧問として、1996年の「保健医療における費用対効果に関するパネル」の作業を指揮した。ノイマン博士は、2016年に費用対効果ガイドラインを改訂・更新したコンセンサスパネルの共同議長を務め、サロモン博士は2016年のパネルのメンバーであった。ノイマン博士は、タフツ医療センター臨床研究・医療政策研究所の健康における価値とリスクの評価センターを指揮し、タフツ大学医学部教授である。いずれも1980年代頃から医療経済評価に関わり、ISPORのチェアマンを務め、多くの論文と重要な教科書を執筆している医療経済評価の大家である。

 

 

ニュースソース

Robert M. Kaplan Peter J. Neumann Joshua A. Salomon Marthe R. Gold: House QALY Ban Could Harm, Not Help, People With Disabilities And Chronic Illness. (MAY 3, 2024)
HEALTH AFFAIRS FOREFRONT. 10.1377/forefront.20240502.443243
https://www.healthaffairs.org/content/forefront/house-qaly-ban-could-harm-not-help-people-disabilities-and-chronic-illness?utm_campaign=forefront&utm_medium=email&_hsenc=p2ANqtz-_9k_a4rUfCaHfMqaXGBWp525P_GOpM6FRZ8hgD0uLl3xM7DRaVumXL5Bc9QCHjz2Y596LoI5gAx5sRqQtKbs9hdUsyTPkoY8u4Y2TlknCjmkflKCM&_hsmi=305524876&utm_source=hasu

 

参考資料

  1. gov: H.R.485 – Protecting Health Care for All Patients Act of 2023.
    https://www.congress.gov/bill/118th-congress/house-bill/485
  2. 医薬政策情報:米国連邦下院、米国医療システムにおけるICERの使用禁止を可決(2024年2月14日)https://www.pcubed.jp/medicine/20240214-332/

 

キーワード
#費用対効果
#ICER
#米国

2024年5月6日
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