米国におけるバリューベース薬価の適正化に向けた提言

米国で医薬品価格引き下げの議論が活発化している。そうした中、2024年5月6日、健康、医療、ライフサイエンスに関するジャーナリズムであるSTATに「バリューベース薬価の適正化に向けて、世界は米国を頼りにしている(The world is relying on the United States to get value-based drug pricing right)」とする提言が掲載された。

提言は、イノベーションのためのグローバルなインセンティブを提供し続けながら、より大きな価値を生み出すことにつながるものと主張している。主張は以下の3点からなる。

1:上市時の薬価は、その健康価値と経済価値に連動すべきである。価値以上の価格は、米国民が過剰な治療費を支払うことを意味し、逆に価値以下の価格はイノベーションへの投資を弱める可能性があるが、他の新薬やジェネリックの上市によって、価値以下の価格となることはしばしばある。そのため、新薬の価格が不利な評価をうけることもある。

2:価値ベースの薬価を正しく設定することは、特に米国では不可欠である。価値評価を「狭い社会的視点」に立って実施する場合、すべての価値が評価されない可能性がある。また閾値(基準値threshold)の設定も価値評価で重要であるが、米国の10万~15万ドル/QALYに比べ英国の3万ポンドは低すぎ、イノベーション・エコシステムの刺激に繋がらない。

3:社会的観点から治療価値を定量化する必要がある。従来の費用対効果分析は、以下の4点が定量化されていない。①重症度、②プロダクト・ライフサイクル・ダイナミクス、③患者以外の幅広い影響、④健康以外の幅広い影響。医薬品の真の社会的利益が過小評価されることで、将来的に利用可能なイノベーションの数を減少させたり、最適とは言えない投資決定につながる可能性がある。

医療技術評価は、医療技術革新の潜在的価値を示すものである。社会的視点を導入することで、意思決定者は革新的医薬品のコストと便益をより包括的に把握することができ、現在の資源の効率的配分を促進すると同時に、革新の最適速度をサポートすることができる。価値に基づく薬価は、今日の患者および明日の潜在的な患者にとってのすべての社会的コストと便益という文脈で判断されるべきである。

提言の著者は、薬剤経済学Pharmacoeconomics)の古くからの権威である以下の3名である。
Jason Shafrin:南カリフォルニア大学アルフレッド・E・マン薬学部の医療意思決定分析の非常勤教授等
Louis Garrison:ワシントン大学薬学部比較医療成果・政策・経済研究所の名誉教授
Melanie D. Whittington:タフツ医療センター価値・リスク評価センターのシニアフェロー

 

ニュースソース
STAT: The world is relying on the United States to get value-based drug pricing right. https://www.statnews.com/2024/05/06/united-states-value-based-drug-pricing/?mkt_tok=NjM4LVBYUi0zMTgAAAGTIJFLcllOIZW9pokmsB0gUyrBZAbn9dDQIHSed4lpXC5R-yk0He4wjXB2VS1k2tFy8uV3ILaxt_WUd8B6C_5BqFYOsISpUnOeYqIKHA

キーワード
#バリューベース薬価
#社会的価値評価

2024年5月18日
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