2024年8月28日、英国製薬協会(Association of the British Pharmaceutical Industry:ABPI)の発表によると、英国労働党の新政権は、バイオ医薬品エコシステムへの大規模な投資を行い、最大4億ポンド(薬760億円)の投資により、18の新しい臨床試験ハブを設立するとのことである1)。
ABPIの報道資料によると、「Voluntary Scheme for Branded Medicine Pricing, Access, and Growth (VPAG)」の投資プログラムが8月28日に開始され、このプログラムは、「今後5年間にわたり、英国の医療・ライフサイエンス分野に多額の投資を行い、英国のライフサイエンス分野の経済成長と国際競争力を高めるもの」としている。また、この資金は、以下のような国内の主要な医療・生命科学プロジェクトに投入される:
- 患者が商業的臨床試験に参加する機会を増やす: 本プログラムは、その投資の75%を、商業的臨床試験のための英国の能力とキャパシティの拡大に充てる。 英国の商業的臨床試験インフラを強化・構築し、臨床試験への患者募集を支援するため、4カ国に最大18の新しい商業研究デリバリーセンター(Commercial Research Delivery Centres:CRDC)が設立される。 研究者はまた、病院、プライマリーケア、コミュニティケア、レジデンシャルケアの環境で革新的な臨床試験をデザインできるよう、最新の機器や技術へのアクセスも向上させ、英国全土のコミュニティにより近いところで研究を行うことができるようになる。
- 持続可能な医薬品製造イノベーションの創出: 資金の約20%は持続可能な製造イニシアティブに向けられ、医薬品セクターにおける効率化を促進し、廃棄物や排出物を削減する。 このような取り組みは、政府および業界のネット・ゼロ目標(Net Zero goals)に沿うものであり、英国の国際競争力を高めつつ、同部門の環境への取り組みを支援するものである;
- 革新的な医療技術評価(Health Technology Assessment :HTA)アプローチの支援: 投資の最後の5%は、HTAプロセスの近代化に焦点を当てる。 これには、National Institute for Health and Care Excellence (NICE) HTA Innovation Laboratoryへの支援や、上市される新薬に関する情報を提供する新しいホライズン・スキャン・データベースUK Pharmascanへの支援が含まれる;
(坂巻コメント:「エコシステム」の掛け声だけ大きい日本であるが、このような具体的取り組みを実現されることが重要である。
余談ながら、英国で有名なエコシステムの一つの「フランシス・クリック研究所」の最上階に、米国製薬企業MSD(英国では「メルク」として活動)は10億ポンドを投入(3年契約)し、UKディスカバリーセンターBelgrove Houseを2024年中にオープンさせる予定とのこと2)。欧米では、企業も国境を越えてエコシステムに対して積極的な投資を行っているが、日本に研究開発拠点設置のために投資する外資系企業は見当たらない。)
ニュースソース
- Association of the British Pharmaceutical Industry:UK secures £400 million investment to boost clinical trials.
https://www.abpi.org.uk/media/news/2024/august/uk-secures-400-million-investment-to-boost-clinical-trials/ - MSD:UK DISCOVERY CENTRE.
https://www.msd-uk.com/research/discovery-centre/
キーワード
#エコシステム
#英国
2024年9月2日