米国の非営利組織、臨床経済研究所(Institute for Clinical and Economic Review:ICER)は、2024年12月12日、米国の処方薬の価格に関するレポート「Unsupported Price Increase :UPI」レポートの2023年版を公表した1)。報告書では、2023年に大幅な純価格上昇が行われた医薬品のトップ10に焦点を当てている。また、報告書では、トップ10医薬品のうち5種類は価格上昇を裏付ける十分な証拠を欠いていると判断し、その結果、2023年に米国の支払者に合計8億1,500万ドルの追加コストが増加したとする。価格上昇の根拠がないとされる5つの薬は、Biktarvy(ギリアドのHIV/AIDS治療薬)、Darzalex(J&Jの多発性骨髄腫治療薬)、Entresto(ノバルティスの心臓薬)、Cabometyx(エクリクシスの抗がん剤)、Xeljanz(ファイザーの炎症性疾患、自己免疫疾患治療薬)。Biktarvyは、値上げによって最も支出が増加した医薬品で、ギリアドは卸売価格を5.9%値上げしたが、リベートと割引を考慮した正味価格は3.8%上昇した。
本報告書の公開同日(12月12日)、非営利団体(ただし、極めて業界寄り)である全米製薬協議会(National Pharmaceutical Council:NPC)は、「 ICERのUPI報告は益より害をもたらし続ける」と批判的な意見を公開した2)。ICERは、2019年以降、毎年UPIを公開しており、2024年12月3日には、NPC所属の著者によるUPI分析の「誤り」を指摘する論文を発表している(参照:米国費用対効果研究所の薬価上昇の分析には誤りがある)。
(坂巻コメント:ICERは、医薬品の価値について経済的視点から、比較的透明性の高い評価を行っている。また、ICERのレポートは、いくつかの医薬品は、その価値以上の高額な価格設定になっているとしている。すなわち、価値評価が必ずしも妥当な価格設定につながらないことを示したともいえる。
日本でも、製薬業界団体は、新薬の薬価算定においてその医薬品の価値評価が十分ではないと主張している。日本企業は、価値評価の具体的方法論を示していない(示せていない)が、少なくとも、価値評価で企業が望む価格にならないことがあることも理解しておくことが重要である。(逆に、費用対効果評価の信奉者たちは、価値以上に高額になってしまう問題があることも知っておくべき。)
ニュースソース
- Institute for Clinical and Economic Review:Unsupported Price Increase Report-Unsupported Price Increases Occurring in 2023.
https://icer.org/wp-content/uploads/2024/12/UPI_2024_Report_121224.pdf - National Pharmaceutical Council:Unadjusted Price Increase Report? ICER’s UPI Reports Continue to Do More Harm than Good.
https://www.npcnow.org/resources/unadjusted-price-increase-report-icers-upi-reports-continue-do-more-harm-good