【論文】スペシャリティ医薬品とPBM

2025年1月7日公開のHealth Affairsオンライン記事。処方箋による支出は近年大幅に増加しており、2022年には米国で6300億ドル以上に成長する。 そのうち、医薬品支出全体の約51%がスペシャリティ医薬品であり、非スペシャリティ医薬品支出よりも速いペースで増加している。ところが、しかし、政策議論において、スペシャリティ医薬品の定義、その定義はだれによって作成されるか、定義されることによるメリットはなにかなどの問題がある。

メディケア・パートDプログラムでは、スペシャリティ薬は670ドル以上という月額費用の基準値を用いた費用ベースの定義を持っている。 さらに、全米専門薬局協会(National Association of Specialty Pharmacy)は、スペシャリティ薬を「一般的な医薬品よりも複雑で、深刻でしばしば生命を脅かす状態の患者の治療に使用される医薬品」と説明している。論文では、市場シェア上位6社のPBMからスペシャリティ薬の定義を抽出することを試みている。これらの定義により、薬局とPBMのスペシャリティ薬に係る今後の方向性(例えば、スペシャリティ・ファーマシーなど)を検討し、規制のあり方を議論している。

一方で、医薬品給付管理業者(pharmacy benefit managers:PBM)は、しばしばスペシャリティ医薬品業界の進化に関連して非難される。連邦取引委員会Federal Trade Commissionによると、3大PBMに加盟している薬局は、全スペシャリティ医薬品の売上の約70%を占めている。また、PBMは医薬品の処方箋を管理し、制限的な薬局ネットワークを構築し、医薬品メーカーと正味薬価を交渉する。

スペシャリティ医薬品の定義としてのコスト:ジェネリックの非スペシャリティ薬の場合、薬局の売上は20ドルで、粗利益90%(18ドル)、人件費・営業コスト約11ドルを支払った後、7ドルの純収入を得ることができる。1万ドルのスペシャリティ薬については粗利率は低く、例えば5パーセントであっても、処方箋1枚ごとにプラスの純利益を得られる可能性がある。ただし、1万ドルの医薬品を購入し、ストックすることのリスクがあり、PBM管理の可能性が高まる。

定義としての物流:スペシャリティ薬の保管要件、取り扱い、出荷を伴う投与の複雑さがある。例えば、抗体医薬のヒュミラ(アダリムマブ)はコールドチェーンが求められ、コールドチェーンの最終的な責任は薬局が負う。

定義としての臨床的必要性:スペシャリティ薬の定義に使用される臨床的要素には、薬物または治療される病態の複雑な性質のため、複雑な投与、患者のモニタリング、広範な患者教育が含まれる。

矛盾の問題:表面的には、コスト、物流、臨床上の懸念がスペシャリティ指定につながると考えられる。しかし、スペシャリティ薬に指定されていない医薬品であっても、これら3つのカテゴリーのいずれかに該当する可能性がある。

(坂巻コメント:現在、米国ではPBMによるスペシャリティ医薬品の価格引き上げが問題となっているが、この論文はPBMによる価格引き上げの要因分析に示唆を与えるものではない。)

ニュースソース

Dylan Kacerek T. Joseph Mattingly:What Makes A Drug Special?: Understanding PBMs’ Pharmacy Definitions.
Health Affairs Forefront (January 7, 2025) 10.1377/forefront.20250103.799767
https://www.healthaffairs.org/content/forefront/makes-drug-special-understanding-pbms-pharmacy-definitions

2025年1月13日
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