肥満に関する新しい定義がLancet Diabetes & Endocrinology誌に2025年1月14日に発表された。体重と身長をリンクさせたBMIだけに頼るのではなく、脂肪率と呼ばれる指標である過剰な体脂肪が身体にどのような影響を与えるかに焦点を当てている。研究グループは、体脂肪は余分だが臓器は正常に働く「前臨床性肥満」と、余分な脂肪が体の臓器や組織に害を及ぼす「臨床性肥満」の2つのカテゴリーを提唱している。治療について具体的に示していないが、臨床的肥満の人々は効果的な治療を受けることができるべきであり、今日ではGLP-1薬が含まれていると指摘される。
本委員会の日本のメンバーは、虎の門病院院長の門脇孝先生。
(坂巻コメント:現在、多くの抗肥満薬が開発途上にあるが、この提言が新薬開発にどのように影響を与えるだろうか。一方で、美容目的でGLP-1薬が使用され不足に陥っているが、不適切な医薬品使用が是正されることになるだろうか。)
以下は、論文の付属資料として掲載されている日本語抄録(改行は坂巻):
現在のBMI(体格指数)に基づく肥満の評価法は、脂肪組織への脂肪蓄積を過小評価または過大評価する可能性があり、個人レベルでの健康に関する情報として不十分である。この結果、肥満に関するケアや政策決定への医学的に適切なアプローチが損なわれている。本委員会は、肥満を他の医学専門領域における慢性疾患と同様に、脂肪組織への過剰な脂肪蓄積が臓器や組織の機能に直接影響を与えることによって引き起こされる疾患として定義することを目指した。
本委員会が明確な目標としたのは、客観的な疾患の診断基準を作成し、臨床的判断及び治療介入や公衆衛生戦略の優先順位付けに役立てることであった。この目的のため、多数の医学専門領域と国から集まった58人の専門家が、現在入手可能な医学的根拠を検討し、コンセンサスを形成するためのプロセスに参加した。委員には、自ら肥満を経験した者が含まれ、患者の視点が考慮された。
本委員会は、肥満を「分布や機能にかかわらず脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、その原因は多因子で未だ完全には理解されていないもの」と定義した。
本委員会は臨床肥満を、脂肪組織への過剰または異常な脂肪蓄積により、組織、臓器、または全身の機能が変化することで引き起こされる慢性かつ全身性の疾患と定義する。臨床肥満は、心臓発作、脳卒中、腎不全などの重大で生命を脅かす合併症を引き起こすことがある。
本委員会は前臨床肥満を、脂肪組織への脂肪蓄積は過剰であるが他の組織や臓器の機能は保持されているとともに、個々には異なるものの一般的には臨床肥満や他の非感染性疾患(2型糖尿病、心血管疾患、特定の種類の癌、精神疾患など)のリスクが増加する状態と定義する。
死亡リスクや肥満に関連する疾患のリスクは、脂肪組織への脂肪蓄積量の増加に伴い連続的に上昇する可能性があるが、本委員会は臨床上および政策決定上の目的のために、前臨床肥満と臨床肥満(健康と病気)の間に明確な区別を設けることとした。
本委員会は、BMIについて、人口レベルでの健康リスクの代替指標として、疫学研究やスクリーニング目的でのみ使用すべきことを推奨する。過剰な脂肪蓄積は、可能であれば直接測定するか、BMIに加えて少なくとも1つの身体計測基準(例:ウエスト周囲長、ウエスト対ヒップ比、ウエスト対身長比)を使用して確認する。これには、年齢、性別、民族に適したカットオフ値を用いる。但し、非常に高いBMI(例:40 kg/m²以上)の場合、実際には、過剰な脂肪蓄積があると推定できる。
本委員会は肥満が確認された人(つまり過剰な脂肪蓄積がある場合、組織や臓器の機能の変化の有無を問わず)は、臨床肥満の有無について評価することを推奨する。臨床肥満の診断には、以下の主要な基準の1つまたは両方が必要である。すなわち、肥満による臓器または組織の機能低下を示す証拠(例:1つ以上の組織や臓器系の機能異常を示す兆候、症状、または診断テスト)があるか、 肥満の影響による移動能力や基本的な日常生活動作(ADL = 入浴、着替え、排尿、排便、食事)が年齢を考慮に入れても有意に制限されているか、両方があるか。
臨床肥満の人は、肥満に伴う臨床所見の改善(可能であれば寛解)を目指し、臓器障害の進行を防ぐために、エビデンスに基づく治療を適時に受けるべきである。前臨床肥満の人は、臨床肥満や他の肥満関連疾患のリスクを減らすために、エビデンスに基づく予防的な管理(健康カウンセリング、経時的モニタリング、適用可能な場合は適切な介入)を受けるべきである。
政策立案者や保健当局は、慢性かつ生命を脅かす可能性のある疾患として、臨床肥満を持つ人々がエビデンスに基づく治療を受けられるように、適切かつ公平なアクセスを確保すべきである。一般住民レベルで肥満の発症率や有病率を減少させるための公衆衛生戦略は、最新の科学的根拠に基づくべきものであり、肥満の発症を単に個人の責任に帰すという根拠の無い憶測に基づくべきものではない。体重に対する偏見とオベシティスティグマは、肥満を効果的に予防・治療するための主要な障害となっている。医療従事者や政策立案者は、この重要な問題に対処するための適切なトレーニングを受けるべきである。
本委員会報告に記載されているすべての推奨事項は委員間で最も高いレベルでの合意(合意率90-100%)が得られたものであり、世界で75もの組織(学会や患者擁護団体など)の支持が得られたものである。
ニュースソース
Francesco Rubino(Metabolic and Bariatric Surgery, School of Cardiovascular and Metabolic Medicine & Sciences, King’s College London, London), et al. : Definition and diagnostic criteria of clinical obesity.
The Lancet Diabetes & Endocrinology CommissionOnline firstJanuary 14, 2025
(オープンアクセス)
https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S2213-8587%2824%2900316-4