【論文】メディケアにおけるエビデンスに基づく保険適用

トランプ政権は、メディケアによる新規医療機器、医薬品、診断法の保険適用に関する大幅な改革を検討している。特に、「証拠収集を条件とした適用(coverage with evidence development:CED)」制度の廃止が議論されており、代替策としてFDAが承認した革新的医療機器に対して4年間の自動適用を認める「革新的医療技術の適用(Medicare Coverage of Innovative Technologies:MCIT)」制度の復活が検討されている。MCITは前回のトランプ政権で導入されたが、バイデン政権により撤回された経緯がある。

また、メディケア加入者に対して民間保険であるメディケア・アドバンテージ(Medicare Advantage:MA)への自動加入を促す案も検討されており、これにより保険適用の決定権がMAプランに委ねられる可能性がある。これらの改革により、革新的技術への迅速なアクセスが促進される一方で、適切なエビデンスの収集が困難となり、患者や医療者が治療の有効性やリスクを判断するための情報が不足するおそれがある。

CEDは、エビデンスが不十分な医療技術へのアクセスを確保しつつ、追加のデータ収集を条件に保険適用を認める制度である。過去には経カテーテル大動脈弁置換術(transcatheter aortic value replacement:TAVR)やがんのPET診断などで有効に機能した例があるが、一方でデータ収集の負担やコストが課題となり、必ずしも期待どおりに機能していない面もある。

これに対して、メディケア・メディケイド・サービスセンター(Centers for Medicare and Medicaid Services:CMS)は2024年に「新興技術の移行的適用(new Transitional Coverage of Emerging Technologies:TCET)」制度を開始し、CEDを簡素化した枠組みのもとで、リアルワールドデータ(RWD)を活用したエビデンス構築を推進している。しかし、TCETの適用件数は年間5件以下に限定されており、突破的医療機器以外には適用されないという制約がある。

これらの状況を踏まえ、筆者らは以下の三つの方策を提案している。

  1. CEDおよびTCETを限定的に維持し、高リスク・高コスト技術に活用する。
  2. 日常診療で収集されるデータを活用した追跡調査を推進する。
  3. 医療データの相互運用性向上を目的とした官民連携の取組と整合を図る。

特に、米国の医療情報基盤(USCDI、FHIR、TEFCA)を活用することで、エビデンス構築の負担軽減と効率化を図るべきである。また、FDAやNIH、ASTP/ONC)など関係機関と連携し、統一的で安全かつ標準化された医療データ基盤を構築する必要がある。

結論として、メディケアは革新的技術への円滑な保険適用を保障しつつ、信頼性の高いエビデンスを確保する政策を維持すべきであり、CED廃止のような措置ではなく、効率的なエビデンス構築と柔軟な制度設計、強固なデータ基盤の整備が求められる。

  • USCDI:連邦政府が規制する医療情報技術システムにおけるデータ要素の最小セットUnited States Core Data for Interoperability
  • FHIR:医療データ交換のための安全な標準Fast Healthcare Interoperability Resources
  • TEFCA:医療データを国全体で安全に交換するための枠組みTrusted Exchange Framework and Common Agreement
  • ASTP/ONC:技術政策担当次官補/医療情報技術調整官事務所(Assistant Secretary for Technology Policy/Office of the National Coordinator for Health Information Technology

 

ニュースソース

Sean R. Tunis(Tufts Center for the Evaluation of Value and Risk in Health), et al.: Medicare Coverage Of Medical Technologies In A New Era.
Health Affairs Forefront,  10.1377/forefront.20250303.214272

2025年3月7日
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