【論文】医薬品の上市価格の判断と解釈における課題

新薬価格の適切性は、しばしば議論の対象となっているが、その評価はそれほど単純ではない。米国の医療経済学の大家であるMelanie D. Whittington(Leerink Center for Pharmacoeconomics), Louis P. Garrison Jr(University of Washington), Jonathan D. Campbell(National Pharmaceutical Council)3名によるAmerican Journal of Managed Care誌、2025年3月24日に掲載された論文で、発売価格と費用効果分析に基づく価値基準価格の比較を行う際に留意すべき4つの理由を提示し、医薬品の価値を評価する際には、発売価格ではなく長期的な「社会的純便益(social surplus)」に着目すべきであることを主張している。これらの理由は以下の通りである:

理由1:発売価格は実際の支払価格と一致しない

発売時に公表される「リスト価格」と、製薬企業が実際に受け取る「純価格」には大きな乖離がある。ある分析によれば、リスト価格からの平均割引率は53.5%であった。多くのCEAでは純価格を用いることが推奨されているが、発売価格(リスト価格)と閾値ベースの価格(純価格想定)を比較することは、適切な比較とは言えない。

理由2:CEAは医薬品の価値を全て反映していない

従来のCEAは医療セクター視点に基づき、医療費と健康アウトカムのみを考慮する傾向がある。しかし、患者の生産性、介護者の時間、交通費など、社会的観点からの影響を評価する必要がある。こうした価値要素を考慮しない場合、CEAに基づく価格評価は不完全である。

理由3:将来の価格変動を考慮していない

多くのCEAは薬剤価格を一定と仮定しており、ジェネリック医薬品の登場などによる価格低下を考慮していない。実際には、特許失効後に価格は下落するため、製品のライフサイクル全体にわたる価格変動を組み込んだ分析が望ましい。

理由4:使用される閾値には大きな不確実性がある

米国では明確なCEAの閾値が政策的に定められておらず、また一般的に用いられている閾値にも不確実性が存在する。閾値は疾患領域によって最適値が異なる可能性があり、単一の固定閾値を用いることは理論的にも現実的にも適切ではない。

結論:価値評価は長期的・社会的視点で行うべき

新薬の発売価格に過度に注目することは、イノベーション促進に資する動的効率性を損なう恐れがある。医薬品の価値はライフサイクル全体における「社会的純便益」で評価されるべきであり、その観点から意思決定を行うことが、より健全な医薬品市場設計につながる。

 

ニュースソース

Melanie D. Whittington, et al.: Challenges With Judging and Interpreting a Drug’s Launch Price.
The American Journal of Managed Care,  July 2025Volume31 Issue 7
https://www.ajmc.com/view/challenges-with-judging-and-interpreting-a-drug-s-launch-price(オープンアクセス)

 

2025年3月26日