米国の公共政策関連のシンクタンクであるマンハッタン研究所Manhattan Instituteによるレポート。実世界のエビデンスの使用を拡大することで、FDAの規制決定をより速く、より安く、そして同様に安全にすることができるとする。以下は、レポートの要約(やや詳しめ)。
- 序論
新たな情報技術の発展により、医薬品開発および承認プロセスの迅速化が可能となっている。特に、従来の高額な臨床試験に代わり、リアルワールドデータ(real-world data: RWD)およびリアルワールドエビデンス(real-world evidence: RWE)の活用が注目されている。これは販売後に薬効を評価するための有用な手段となり得る。
- 代替的な臨床試験の形態
プラグマティック試験は、日常臨床の中でデータを収集することで、費用と時間を抑えつつ有効性・安全性の情報を得ることができる。イギリスのRandomised Evaluation of COVID-19 Therapy: RECOVERY試験はその好例であり、COVID-19に対する治療法評価において迅速かつ安価に貴重な結果を得た。米国では同様の試験がほとんど実施されておらず、制度的改革が必要である。
- 議会および行政の取り組み
2016年の「21世紀の治療法(21st Century Cures Act)」はRWDとRWEの活用促進をFDAに義務づけたが、実質的な進展は乏しい。FDAはガイダンスを公表しているが、実際の適用に関する定量的目標や障壁の明示はなされていない。特に、RWDの信頼性や倫理的課題がRWE導入の障害となっている。
- PDUFAとFDAのコミットメント
PDUFA(Prescription Drug User Fee Act)の再承認により、FDAはRWE活用に向けたパイロットプログラムを開始しているが、透明性が不足しており、公的報告も限定的である。2023年には100件を超える適応追加が承認されたが、RWEが使用されたのはごく一部に過ぎなかった。
- RWEの活用と適応拡大
RWDとRWEは、特に希少疾患に対して、既存医薬品の新たな適応追加を支援する有効な手段である。例として、2023年にFriedreich運動失調症の治療薬として承認されたSKYCLARYS(omaveloxolone)が挙げられる。自然歴データなどのRWEが、承認に寄与したとされている。
- 規制科学の最前線
RWEとRWDの活用には、規制科学の進展が不可欠である。非無作為化研究の信頼性を高めるため、FDAは多数の研究プロジェクトを支援しており、観察研究とRCTの結果の整合性も一部で確認されている。ただし、因果関係の推定には慎重さが求められる。
- 結論と提言
RWEの活用を促進するため、以下の改革が提言されている:
- 全米科学・工学・医学アカデミー(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine:NASEM)などの独立機関による制度的障壁の評価と勧告。
- FDAによる年次報告の強化と透明性の確保。
- RWEとRWDの信頼性向上に向けた研究支援の拡充。
- 2030年までに、新規適応申請の50%、希少疾患治療薬の10件にRWE活用を導入するという数値目標の設定。
これらにより、医薬品承認のコスト削減、革新の促進、患者アクセスの向上が期待される。
ニュースソース
Randall Lutter:Expanding the Use of Real-World Evidence Can Make FDA Regulatory Decisions Faster, Cheaper, and Just as Safe. Manhattan Institute, March 27th, 2025
https://manhattan.institute/article/expanding-the-use-of-real-world-evidence-can-make-fda-regulatory-decisions-faster-cheaper-and-just-as-safe