米国の340Bプログラムは、1992年に制定された公衆衛生サービス法(Public Health Service Act)第340B条項に基づいて導入された制度である。制度の目的は、経済的に困窮している患者層や地域に医療サービスを提供している医療機関の財政を支援することにある。
論文は、2021年のデータを用いて、128の施設と5つの医薬品クラスについて、施設レベルの340Bマージンとマージンに関係すると考えられる因子について横断的分析を行った。 その結果、薬剤の種類、施設の種類と市場力、施設のある地域の豊かさが340Bプログラムにおける薬剤マージンに影響することがわかったとする。
研究結果の主な知見
① 医薬品利益率は施設タイプによって異なる
- 病院外来部門では、独立型クリニック(free-standing offices)よりも平均340Bマージンが大幅に高い。
- 病院外来部門は大手病院に所属しており、市場での交渉力(pricing power)も強いため、保険者からの償還額も高くなる傾向。
② 市場の競争環境と地域の裕福さが利益に影響する
- 競争の少ない(= 集中度が高い)医療市場ほど340Bマージンが高い。
- 貧困率が低い(= 裕福な地域)ほど340Bマージンが高い。
- → 裕福なエリアの施設の方が、商業保険からの高償還を得やすく、利益率が高くなる傾向。
③ 非340B医薬品における価格交渉力と340Bマージンに相関あり
- 医療機関が非340B薬剤でも高いマージンを取っている場合、340Bでも高いマージンを得ている傾向。
- → 全体的な市場での価格交渉力=340Bでも高利益を得る体質を示唆。
(坂巻コメント:米国でも低所得者に対するいくつかの支援策がある(メディケイドに加え、IRAによる薬剤の年間負担上限など)。340Bプログラムもその一つと言える。市場原理のもとで薬剤購入が行われると競争構造の歪みが生ずることを示している。)
ニュースソース
James Motyka(Petauri LLC, formerly National Pharmaceutical Council, Washington, DC,), et al.: The Association of 340B Program Drug Margins with Covered Entity Characteristics.
INQUIRY. 2025;62. doi:10.1177/00469580251324051
◆ 340Bプログラムの概要
設立背景:
340Bプログラムは、1992年に制定された公衆衛生サービス法(Public Health Service Act)第340B条項に基づいて導入された制度である。目的は、経済的に困窮している患者層や地域に医療サービスを提供している医療機関の財政を支援することにある。
◆ 対象となる医療機関(Covered Entities)
以下のような医療機関が対象である:
- 連邦政府指定の地域保健センター(FQHC: Federally Qualified Health Centers)
- HIV/AIDSクリニック
- 地方病院(Disproportionate Share Hospitals)
- 州や地方自治体が運営する医療施設
- 在郷軍人医療施設(VA facilities)(一部)
これらの施設は、通常、低所得層や保険未加入者への医療サービスを多く担っている。
◆ 340Bによる医薬品の購入方法
- 登録: 対象施設は、Health Resources and Services Administration (HRSA) に登録し、認可を受ける必要がある。
- 購入: 登録後、製薬企業から340B価格で医薬品を直接購入することができる。
- 在庫管理: 医薬品は、一般価格で購入した薬剤と混在しないように、**分離管理(carve-out)または積算管理(carve-in)**が行われる。
- 薬局利用: 医療機関自身の薬局や、**契約薬局(contract pharmacy)**を通じて患者に薬を提供することもできる。
◆ 価格の仕組み(340B価格)
製薬会社は、Medicaid Drug Rebate Programで定められた価格をベースに割引価格を提供する。通常、一般市場価格の20~50%程度安い。
◆ 340Bプログラムのメリットと論点
メリット:
- 医療機関のコスト削減に貢献。
- 割引で得た収益を使って無料診療や追加サービスを提供する機会が増える。
- 薬価が安くなることで、患者負担の軽減にもつながる可能性がある。
主な論点・批判:
- 一部の医療機関が、実際には貧困層ではない患者にも340B価格の薬を提供し、差額を利益として計上しているとの批判。
- 製薬会社側からは、「プログラムの規模が当初想定よりも大きく膨らんでいる」「不透明な運用」などの指摘がある。
◆ 最近の動向(2020年代)
- 製薬会社と契約薬局の間での対立が目立っており、複数の製薬企業が契約薬局への供給制限を試みたことが話題に。
- それに対して、HRSAが法的措置を取る動きも出ている。
- 連邦議会や裁判所での議論も続いており、今後の制度の改正や透明性の向上が注目されている。