Euronews.は、2025年4月3日の記事で、欧州委員会は依然として警戒を怠らず、さらなる関税導入の可能性を懸念していると伝える。
欧州委員会の高官は、「安堵のため息をつけるかは疑問だ」と述べ、将来的な追加関税の可能性を否定していない。米国はリショアリング(国内回帰)を推進すべき5つの戦略分野として、自動車、鉄鋼・アルミ、鉱物・木材、医薬品、半導体を挙げており、すでに自動車や鉄鋼には関税が課されているとし、残る医薬品と半導体についても、調査が開始される可能性が高いとEU高官は指摘する。
米国とEUは、高度に専門化された医薬品や原薬を相互に供給し合う関係にあり、貿易は一方向ではなく双方向である。2024年、医薬品は米国にとってEUからの最大輸入品目であり、その総額は1,270億ドル(約1,170億ユーロ)に達した。
トランプ政権による2017年の税制改革が、米企業による利益移転とタックスヘイブン活用を助長した。その結果、ファイザー、アッヴィ、J&J、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、メルクなどがアイルランドに製造拠点を集約しており、同国の輸出の大部分が米国向けである。また、医薬品産業はアイルランドで約4万5千人を雇用し、米国への輸出額は720億ユーロを超えるが、将来的な関税適用はアイルランド経済に深刻な影響を及ぼす可能性があるとする。
また、ベルギーは、2024年の最初の10か月間で730億ドル超の医薬品を輸出し、その24%が米国向けである。ベルギーの輸出全体のうち、製薬業が占める割合は15%に達し、米国市場への依存度は高い。ベルギー製薬団体Pharma.beの代表は、「最初の反応は安堵だが、将来については非常に懸念している」と述べているとする。
(坂巻コメント:EUのトランプ関税への懸念は、新薬が中心である。米国における重要な医薬品産業部門は新薬であるが、米国籍の企業であっても、実際、米国外で製造されていて、米国にとっては、入超である。新薬製造を米国内に呼び込むために、新薬に対して新たな関税導入の可能性はありうる。日本初の新薬も大半は日本以外で製造しているため、影響はありうる。
ただし、米国内での製造所稼働には時間がかかる。また、米国での医薬品価格引き下げは第一次トランプ時代にその流れが作られた。(その後、バイデン政権下で「インフレ抑制法」が成立した。)米国での医薬品価格は自由価格であるため、関税により米国内医薬品価格上昇は、医薬品価格抑制の方向性と矛盾が生ずる。そのため新たな関税導入の実現可能性は低いのではなかろうか。一方、米国が新薬企業に利益誘導する方向性として、関税より欧州や日本での公定価格の引き上げを求めてくる可能性が高いのではないか。(参考:【注目記事】トランプシンクタンクAFPIの国際的医薬品価格に関する提言:グローバルなフリーローディングを許さない))
ニュースソース
Euronews.: Did pharma sector dodge Trump’s tariffs? The EU’s not so sure. (By Gerardo Fortuna & Maria Psara, 03/04/2025)
https://www.euronews.com/my-europe/2025/04/03/did-pharma-sector-dodge-trumps-tariffs-the-eus-not-so-sure
なお、ニューヨーク・タイムズは、4月4日、「トランプ大統領の次の関税の標的は外国製医薬品となる可能性がある
トランプ大統領は医薬品の製造を米国に戻したいと考えている。専門家は、関税がジェネリック医薬品の不足と価格上昇につながる可能性があると警告している。
水曜日、外国製医薬品がトランプ大統領の広範囲にわたる新関税の適用除外となったことで、製薬業界は一時的に救済された。
しかし、トランプ氏は数週間前から、医薬品に特に高い関税を課すつもりであり、海外で生産されている医薬品の生産を米国に戻すことを目標にしていると述べてきた。同氏は、その課税は25パーセント以上になる可能性があると発言している。製薬会社は、自分たちを対象とした関税が間もなく発表されると依然として見込んでいる。
「製薬会社は必ず復活する。復活するのだ。彼らはみな、わが国に戻ってくる。そうしなければ、多額の税金を支払わなければならないからだ」と、トランプ氏は水曜日にローズガーデンで行われたイベントで発言した。」と伝えている。