2025年4月17日、日本のマスコミがiPS細胞によるパーキンソン病治療の一部の結果発表を伝えた。一方、この研究結果を掲載した英国の科学雑誌Nature誌も、4月16日号で、幹細胞治療についての期待と懸念を示す論文を公開している。
なお、Natureは、2015年にも日本の条件付き承認制度と同制度によりハートシートが(仮)承認されたことを批判している。
1.パーキンソン病治療に「大きな飛躍」:幹細胞臨床試験で症状が改善
この論文では、米国とカナダで行われた臨床試験と日本の臨床試験を紹介し、これらの試験から、幹細胞治療は安全であるが、その有効性を証明するにはより大規模な臨床試験の実施が必要であるとし、さらに、「この分野における大きな問題は、転帰に大きなばらつきがあることである」とまとめている。
2.日本の幹細胞治療への大きな賭けは、近い将来、医学的ブレークスルーで報われるかもしれない。
この論文では、山中教授のノーベル賞受賞と日本が再生医療の研究開発に1100億円以上を注ぎ込んだことや、新興企業を立ち上げたことなどを(皮肉っぽく?)紹介している。実際、世界中で60以上のiPS細胞臨床試験が進行中で、その3分の1近くは日本で行われているとされる。日本で実施中の、黄斑変性症、パーキンソン病、脊髄損傷などを紹介しながら、一方で、日本における迅速承認プロセスや関連プログラムのもとで、条件付き承認を受けた4つの製品のうち2つが承認を取り下げたことも示しながら、日本での承認プロセスへの懸念を示している。しかしながら、日本のさまざまな取り組みにより、コスト削減、治療へのアクセスなどの問題は改善されることの期待も示している。
3.(論説)有望な幹細胞治療を急ぐな
北米と日本での臨床試験を紹介し、「この結果は、膨大な数の人々にとって歓迎すべきニュースである」としつつ、「人々の生活を一変させる可能性を秘めているが、これらの治療法が急速に臨床に移行しないことが重要である。 研究者には、安全性と有効性の試験を完了するために必要なだけの時間を取ることが許されなければならない。」とする。ここでも、日本が条件付き承認を受けた製品の一部が承認を取り下げたことをとりあげ、公的医療保険制度を通じて支払われたことも批判している。
科学的根拠に基づく新たな医薬品を慎重かつ徹底的に評価することが、患者、研究者、そしてそのような治療法を臨床に導入する組織といった関係者すべてにとって最善であるとし、さらには、薬事承認プロセスを必要以上に急ぐことが再生医療の有望性を危険にさらすことになると警告する。
ニュースソース
- Smriti Mallapaty: NEWS-‘Big leap’ for Parkinson’s treatment: symptoms improve in stem-cell trials. Nature doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-01208-7
- Smriti Mallapaty: Japan’s big bet on stem-cell therapies might soon pay off with medical breakthroughs. Nature 640, 584-587 (2025) doi:https://doi.org/10.1038/d41586-025-01143-7
- EDITORIAL- Don’t rush promising stem-cell therapies.
Nature 640, 570 (2025) doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-01176-y