【論文】GLP-1発見に関する考察

JAMA network、2025年4月21日オンライン公開記事。

GLP-1(glucagon-like peptide-1)の薬剤が糖尿病や肥満以外の領域にも応用され始める中で、その生物学的作用の発見に関わった科学者たちの役割と出来事に関心が集まっている。筆者らは、1984年から1988年までボストンのマサチューセッツ総合病院におけるJoel Habener博士の研究室でポスドクとして在籍しており、その間にGLP-1に関する基礎的研究に携わってきた。現在、GLP-1に基づく新薬は、糖尿病や肥満のみならず心血管疾患や神経疾患においても有望な治療選択肢を提供している。原稿は、GLP-1発見のストーリーは、基礎科学研究を支援することの治療的意義をタイムリーに想起させるために、当時の研究の経緯をまとめることを目指すものとしている。以下は、論文の要約。

 

当時の研究室内では、Svetlana Mojsov博士やDaniel Drucker博士らとともに、プロホルモンであるプログルカゴンの処理とその生成物であるGLP-1に関する研究が行われていた。既に同研究室では他のプロホルモン(副甲状腺ホルモン、カルシトニン、ソマトスタチンなど)の合成と加工に関する研究実績があり、プログルカゴンの切断部位と生成される活性ペプチドの探索が進められていた。

アンコウ(anglerfish)やラット由来のグルカゴンcDNAと遺伝子がクローニングされた後、プログルカゴン配列中にGLP-1およびGLP-2のコード領域が存在することが確認され、GLP-1の生物活性の解明に焦点が移った。Mojsov博士はペプチド化学の専門家として抗体とRIアッセイを開発し、ラット膵臓および腸の抽出物からGLP-1(1-37)およびGLP-1(7-37)の複数のアイソフォームを同定した。

一方、Drucker博士は3種の細胞株(線維芽細胞、下垂体細胞、膵島細胞)にプログルカゴンcDNAを導入し、その翻訳後加工を解析。GLP-1(7-37)がインスリン分泌とcAMP産生を促進するが、GLP-1(1-37)には活性がないことを初めて示した。また、インスリン遺伝子の発現もGLP-1(7-37)によって増加することを示し、これがグルコース濃度依存であることを明らかにした。これらの知見は、GLP-1の作用が膵島β細胞において直接的かつ血糖依存的であることを証明した初の研究成果である。

その後、GLP-1のインスリン分泌作用をラットの灌流膵臓モデルで検証するため、ジョスリン糖尿病センターのGordon Weir博士との共同研究が行われ、その結果は速報として発表された。

GLP-1研究の初期段階でその生物学的作用を解明したDrucker博士の功績は特筆に値する。彼の発見により、GLP-1の短縮型が活性型であることが示され、以後の研究の礎が築かれた。

 

ニュースソース

Jacques Philippe(Faculty of Medicine, Geneva University, Genève), Alvin C. Powers(Vanderbilt University Medical Center, Nashville, Tennessee):Observations on the Discovery of Glucagon-Like Peptide-1 Action.
JAMA. Published online April 21, 2025. doi:10.1001/jama.2025.5142

2025年4月23日
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