供給情報の仕組み

近年、医薬品不足(drug shortages)は多くの国でますます一般的になっています。経済協力開発機構(OECD)の2022年の調査では、OECD加盟14カ国のサンプルで、2017年から2019年の間に不足の届出件数が60%増加しています。また、OECD加盟国の多くは、不足モニタリングシステムの改善、不足による医療への影響の緩和、また、将来的な供給不足の発生防止を目指した政策を推進しており、ほとんどの OECD 加盟国には国内モニタリング制度が存在していることも示されています。

一方で、国内モニタリング制度が存在していない加盟国は、日本とチリのみとされており、日本は、医薬品供給情報モニタリング制度の面では発展途上国ということもできます。

国内の医薬品供給のモニタリングを行うことで、医療への影響の分析と影響の緩和、根本的な原因分析と対策、それらに対する効率的な政策措置が可能になると考えられています。一方、医薬品市場はグローバル化しており、製薬企業の商業的要因による供給不足だけでなく、原料・原薬のサプライチェーンは世界にまたがっており、国際的な原因分析と対策についての政策措置のベストプラクティスの構築を目指して、今後、グローバルなモニタリングシステムの調和も検討されています。

本財団では、海外での供給情報をモニタリングすることで、日本国内での供給リスクの発見のため、関係者への情報提供を行っています。

 

米国

(1) 連邦食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)

食品医薬品局安全革新法(Food and Drug Administration Safety and Innovation Act:FDASIA法)に基づき、企業(製造業者)はFDAに供給不足を報告する義務が定められています。報告義務の対象となる医薬品は、公衆衛生に大きな影響を与え、迅速に解決されることが期待される供給不足とされています。製造業者は、少なくとも少なくとも供給不足の6か月前にFDAに通知する必要があります。ただし、6か月前の通知が不可能な場合は、できるだけ早く通知を提出することとされています。最終医薬品または生物学的製剤の製造の恒久的な中止または中断に関する通知は、製造の中止または中断が発生してから5営業日以内に提出する必要があります。

(2) 米国医療システム薬剤師会(American Society of Health-System Pharmacist: ASHP)

「ユタ大学医薬品情報サービス」がデータ収集し、ASHPが供給不足情報の公開を行っています。情報源は、開業医、患者等からの自主報告であり、FDAよりも多くの供給不足を頻繁にリストアップしています。

 

カナダ

食品・医薬品規則(Food and Drug Regulations)に基づき、企業(製造業者)はカナダ保健省に供給不足を報告する義務が定められています。報告については、以下の3段階で、供給不足開始予定日の少なくとも6か月前に報告することになっています。報告対象医薬品は、医師の監督のもとに使用される医薬品、フォーミュラリー掲載医薬品などが対象となっています。

Tier1:供給不足が予想される場合
Tier2:供給不足の場合
Tier3:供給不足において国内に代替薬がない場合

 

オーストラリア

治療製品法(Therapeutic Goods Act )に基づき、企業は医療製品管理局(Therapeutic Goods Administration:TGA)への報告が義務付けられています。報告の義務を怠った場合、ペナルティ(罰金)が生じることにもなっています。
供給不足による影響評価が行われ、その影響に応じて報告タイミングは、①「重大」の場合は発覚から2日以内、②重大以外の場合は発覚から10日以内に報告することになっています。また、報告すべき製品は、医療用医薬品の他、公衆衛生上重要と考えられる一般用医薬品とデバイスも含まれ、特に患者に重大な影響を及ぼす医薬品については「医薬品ウォッチリスト」が作成され、監視されることになっています。

 

ドイツ

医薬品法(Arzneimittegesetz:AMG)に基づき、企業(製造業者)と卸売業者の双方に継続的な供給が義務付けられています。さらに企業は、供給不足の6か月前には連邦医薬品・医療機器研究所(Bundesinstitut für Arzneimittel und Medizinprodukte :BfArM)内の諮問委員会(Beirat für Liefer- und Versorgungsengpässe)に対して報告が義務付けられています。報告のタイミングは、供給不足が明らかとなったのち、直ちに行うことになっています。
報告する医薬品は、処方箋薬のうち「供給に関連する有効成分リスト」「供給に不可欠な有効成分リスト」「定期的なデータ送信義務医薬品リスト」が作成され、それぞれの区分に沿って報告する必要があります。
なお、2023年7月26日に、医薬品不足に対処し供給を改善するための法律(Arzneimittel-Lieferengpassbekämpfungs- und Versorgungsverbesserungsgesetz:ALBVVG)が公報に掲載され、ドイツにおける供給状況全般の継続的な監視と評価の分野における責任を強化することとされています。

 

フランス

公衆衛生法(Code De La Santé Publique:CSP)に基づき、企業(製造業者)は医薬品・健康食品安全庁(L‘Agence Nationale De Sécurité Du Médicament Et Des Produits De Santé:ANSM)への報告が義務付けられています。また、安全在庫を構成する製薬会社の義務を定める政令第 2021-349号(Le décret n° 2021-349 Instaurant L’Obligation Pour Les Entreprises Pharmaceutiques)により、企業は医薬品の不足管理計画を策定することが求められています。供給不足の報告は、在庫切れのタイミングをできるだけ早く行うこととなっています。
報告すべき医薬品として、心臓血管薬、神経系薬、抗感染症薬、抗がん薬などの特に供給不足によるリスクの高い「主要医薬品リスト(Médicaments D’Intérêt Thérapeutique Majeur:MITM)」が定められている他、公衆衛生法(CSP)に基づき、治療の中断が短期的または中期的に患者にとって生命を脅かす可能性が高い医薬品が対象となっています。

 

英国

ヒト医薬品規則(The Human Medicines Regulations )に基づき、企業(製造業者)は適切かつ継続的な供給を確保する一般的な義務を負うこととなっています。また、英国保健省(Department of Health and Social Care:DHSC)と英国製薬協会(The Association of the British Pharmaceutical Industry:ABPI)および英国ジェネリック製薬協会(British Generic Manufactures Association:BGMA)との合意による「医薬品の供給と不足を管理するためのガイド」に基づき、企業は供給不足情報をDHSCに報告するとともに、供給問題を管理し、患者への影響を軽減するための措置をとる必要があり、報告しなかった場合にはペナルティ(罰金)が生じます。
報告は、供給不足の少なくとも 6 か月前に行うことされ、それが困難な場合には、可能な限り速やかに行うこととされています。報告対象医薬品は、国民保健サービス(National Health Service:NHS)で使用されるあらゆる種類の医薬品となっていますが、公開されている情報は、NHSの「深刻な供給不足プロトコル(Serious shortage protocols :SSPs)」に該当する一部製品となっています。

本サイトでは、2024年6月から英国Community Pharmacy England(CPE)が提供する供給不足情報も提供します。
こちらは保健社会福祉省(DHSC)が発表するもので、英国薬局のNHSメールアドレスに通知されるほか、Specialist Phamracy Service (SPS)のサイトでも見ることができます。本サイトの情報は、NICEの「Medicines Awareness Service」に基づいています。

  • https://www.sps.nhs.uk/

 

EU

【欧州連合(EU)-欧州医薬品庁(European Medicines Agency EMA)】
欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会(EC)は2023年4月、EUの医薬品規制を約20年ぶりに大幅に見直すことを公表しました。改正案では、医薬品供給不足に対する対策の強化も盛り込まれており、これに合わせる形でEMAは、「医薬品不足の予防と緩和のための産業界向けガイダンス」を公表しています。ガイダンスには、企業から各国規制当局への報告義務の強化と、供給不足に対する予防と管理に関する企業責任の明確化が含まれています。EMAのホームページでは、複数のEU加盟国に影響を及ぼす、あるいは及ぼす可能性のある医薬品不足に関する情報を公表し、医薬品不足を評価し、患者や医療専門家への勧告も示されています。

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