各国の政策立案者は、インスリン価格の高騰への対策に取り組んできた。インスリン市場は、3社が市場シェアを分け合っており、限られた競争が価格の高止まりとともに、供給不足にも影響を与えている。具体的には、世界のいくつかの国(例えば南アフリカ)で、企業(特にノボ・ノルディスク)の商業的理由による撤退でインスリン不足に直面している。インスリン不足は、糖尿病患者にとっては生命にかかわる問題であり、特許が残っていてバイオシミラーが上市されていない場合は、さらに危機的な問題になる。
商業的理由による撤退とはいえ、インスリンは決して儲からない製品ではない。一部の学者やジャーナリストは、より価格が高く収益性が高いと推測されるGLP-1製剤の製造のために、インスリン製造ラインが再利用されていると推測している。
米国では、「2012年食品医薬品局安全・革新法(2012 Food and Drug Administration Safety and Innovation Act)」により、企業が製品の製造中止をする場合、中止日の少なくとも6か月前または実行可能な限り速やかにFDAに通知することが義務付けられている。しかしながら、先行品企業が製造中止を通知しても、代替となるバイオシミラー上市に対して、先行品の特許の「藪(thickets)」の保護や、特許をクリアしても臨床試験に2年以上かかるなどの課題がある。また、バイオ医薬品の製造工程も、低分子に比べて長時間を要する。
近年の医薬品不足対策の議論は、製造上の問題やサプライチェーンの途絶などに焦点が当てられているが、本論文では、医薬品の製造中止に関する政策が軽視され続けていることは機会損失であるとし、より永続的な解決策として、(バイオシミラー上市をより容易にするために)①立法による知的財産の障壁への対処、②技術移転の義務付け、③公共部門による製造の拡大を提案している。
ニュースソース
Melissa Barber(Yale Law School and the Yale School of Medicine), et al/: Counting On Insulin Manufacturers To Do The Right Thing Is Not A Good Policy Prescription To Avert Shortages.
HEALTH AFFAIRS FOREFRONT (JULY 12, 2024). 10.1377/forefront.20240710.982244
https://www.healthaffairs.org/content/forefront/counting-insulin-manufacturers-do-right-thing-not-good-policy-prescription-avert
キーワード
#インスリン不足
(坂巻コメント:インスリン不足については、米国の医療ジャーナル「STAT」も報じている。同紙によれば、ノボのオゼンピック、リリーのマンジャロというより収益性の高い製品の製造に重きを置いていて、一方で、ノボは「レベミル」、リリーは「ヒューマログ」3mLバイアルの製造を中止している。不足は、バイアルだけでなく、ペンも不足している。バイアルの不足は、インスリン・ポンプ充填にも影響を与えているとのことである。
STAT:As GLP-1 sales surge, insulin users fear Novo Nordisk and Eli Lilly will move on without them.(July 17, 2024)
As GLP-1 sales surge, insulin users fear Novo Nordisk and Eli Lilly will move on without them