英国製薬協会(Association of the British Pharmaceutical Industry:ABPI)により設立された医療経済学を中心とした研究所であるThe Office of Health Economics:OHEは、2024年9月16日、「The Cost of Drug Shortage」と題するレポートを公表した。
レポートの要点
- 医薬品不足は世界的な懸念となっており、複数の治療分野に影響を及ぼしている。 薬価が非常に低いため、品不足はジェネリック医薬品やバイオシミラー医薬品市場に集中することが多い。
- OHEは、文献調査に基づいて、医薬品不足のコストを推定するための枠組みを開発した。 その結果、患者の健康、医療資源の追加使用、価格上昇の3つが主な影響範囲であることが分かった。
- 3つのケーススタディが作成され、医薬品不足は、環境や医薬品の種類によって異なるが、甚大な影響をもたらす可能性があることが示された。
- 政策立案者は、コスト抑制政策を通じて医薬品支出を抑制する努力と、医薬品不足がもたらす下流への影響とのバランスをとる必要がある。
- 持続可能な医薬品市場は、弾力性のあるサプライチェーンを促進し、医薬品不足のリスクを低減し、すべてのステークホルダーに利益をもたらすために必要である。
医薬品不足によるコスト推計の枠組みと推計結果
医薬品不足によるコスト推計の枠組みは以下のアプローチにより設計している。OHEの研究では、過去10年間の文献を調査し、医薬品不足による混乱は、価格の上昇、医療資源の追加使用、患者の健康への影響という3つの主要な経路を通じて、医療システムと患者に影響を与えるとした。
- 価格上昇には、より高コストの代替品への切り替えコストと、医薬品不足に伴う医薬品自体の価格の上昇傾向の両方が含まれる。
- 追加的な医療資源の使用は、在庫の調整、代替品や代替プロトコルの特定、購入方法の変更など、特に薬剤師が医薬品不足を管理するために必要な時間と人件費が含まれる。
- 薬剤不足が治療の遅れや最適な治療でない場合に、最も深刻なリスクと結果として、薬剤過誤、有害事象、副作用、治療の遅延、効果の低い代替薬への切り替えなどが含まれるが、患者の健康とQOLへの影響を、患者一人当たりの質調整生存年(quality adjusted life years:QALY)として計測し、それを金銭価値に置き換えている(換算レートは欧州と米国では異なる値を用いている)。
これらのフレームワークに基づき、仮想事例としてトラスツズマブ、スタチン、生理食塩水の3ケースによるコスト推計が行われている。このうち、トラスツズマブについては、大規模な供給不足はまだ報告されているわけではないが、IQVIAのデータをもとに、最もシェアの大きいバイオシミラーが不足するとの過程でシミュレーションが行われている。
その結果、トラスツズマブについては、米国で5億1900万ドル(約762億9300万円: 1ドル = 147円で計算)、EUで1660万ユーロ(約26億2280万円:1ユーロ = 158円)になる可能性があることが示されている。また、スタチンでは、米国で14億5,000万ドル、EUで6,300万ユーロであるが、生理食塩水については、定量化された値は示されていない。
ニュースソース
Office of Health Economics:The Cost of Drug Shortage.
https://www.ohe.org/publications/the-cost-of-drug-shortages/?utm_campaign=OHE
キーワード
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