Generics and biosimilars Initiative(GaBI Journal)は、2024年10月23日掲載記事で、日本のジェネリック医薬品を中心とした医薬品不足の状況とともに、慶應義塾大学の木下翔太郎氏らがLancet regional Healthに投稿した論文を紹介しながら、日本の薬価制度改革の必要性を指摘している。ただし、改革の具体策は示されていない。木下氏は、医師で内閣府官僚経験者。
以下は、それらの論文の日本語訳。
GaBI Journal
医薬品不足は世界的に深刻化しており、日本も様々な要因が重なり、大きな課題に直面している。 大きな問題のひとつは、先発医薬品からジェネリック医薬品へのシフトと、製造・開発における不祥事である。 このような医薬品不足は、必要不可欠な治療法へのアクセスに影響を及ぼし、製薬会社や政府に対策を求めている。
日本では、医療費抑制が中心的な政策課題となっている。 過去20年間、国民皆保険制度の下での薬価は一貫して引き下げられてきた。 これにより医療費全体が削減された一方で、製薬会社は手抜きを迫られ、不祥事や製造品質の低下につながった。
特にテプレノンカプセル50mg「サワイ」では、安定性モニタリングの不備が見つかった。 このため、医薬品の強制回収や代替品の使用により医療に大きな混乱が生じ、既存の医薬品不足が深刻化した。
これに対処するため、東京の慶応大学医学部の木下と岸本は、政府が2023年と2024年に不採算医薬品に対する例外的な価格見直しを導入することを提案している。 しかし、2024年の報告書では、特定の医薬品の29.6%〜100%が不採算になる可能性が示されており、状況は依然として悲惨である。
さらに、日本の薬価の低さと臨床試験費用の高さが、外資系製薬会社の市場参入を抑制しており、その結果、利用できる新薬が少なくなっている。 薬価政策を再評価することは、必要不可欠な医療をこれ以上混乱させないために極めて重要である。
Lancet regional Health
医薬品不足は世界的に深刻化している。日本で医薬品不足が深刻化している原因としては、大規模なジェネリック医薬品への切り替え政策の影響や、開発・製造管理が不十分な製薬企業や流通業者による不祥事が相次いだことなどがあげられる。医薬品不足は必要不可欠な治療へのアクセスに影響を及ぼすため、製薬企業には改善に向けた取り組みが求められるが、製薬企業を窮地に追い込んだ要因の一つである薬価政策の見直しも必要となるかもしれない。
日本では、医療費抑制が重要な政策課題となっており、政府は国民皆保険の対象となる医薬品の価格引き下げを継続している。製品差はあるものの、総じて薬剤費は約20年連続で引き下げられている。この薬価低下により、日本の製薬企業はコスト削減を余儀なくされ、開発・製造管理の不備や数々の不祥事につながった。この行き過ぎた薬価引き下げに対して、政府は2023年と2024年に不採算品の特例価格見直し制度を制定したが、製薬企業の厳しい状況は改善されていない。例えば、2024年8月7日に政府の審議会に提出された文書によると、日本製薬団体連合会加盟団体の医薬品のうち、種類別に見ると29.6%~100%が不採算になると見込まれており、政府に改善を求めている。3不採算品目の多さは製薬企業の体力低下を招き、不適切な生産方法や生産からの完全撤退につながる恐れがある。
さらに、日本の薬価が低いことは薬の損失につながる可能性がある。薬価の低さと治験費用の高さは、外国製薬企業の日本市場への参入や国際共同治験への日本参加を阻み、結果として国内で入手できる外国の新薬の減少につながっている。日本の医療費削減には、薬価の切り下げ以外にも、患者の自己負担比率の見直しや不要不急の医療需要の削減など多くのアプローチがある。また、政府は、対象医薬品の一部をOTCに切り替えることで、対象医薬品の価格を切り下げることなく、公費負担の医療費を削減できる可能性があるが、これは他国に比べて少ない。必要な医療に支障をきたさないためにも、薬価引き下げによる医療費抑制政策を見直す時期が来ていると考える。
ニュースソース
- Generics and biosimilars Initiative:Japan’s drug shortage crisis: challenges and policy solutions. Posted 23/10/2024
https://gabionline.net/generics/research/japan-s-drug-shortage-crisis-challenges-and-policy-solutions - Shotaro Kinoshita1,2, Taishiro Kishimoto1: Challenges introduced by Japan’s drug pricing policy.
1: Hills Joint Research Laboratory for Future Preventive Medicine and Wellness, Keio University School of Medicine
2: Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, The University of Tokyo
https://www.thelancet.com/journals/lanwpc/article/PIIS2666-6065(24)00206-2/fulltext