欧州委員会(EC)は、2025年2月28日、EU加盟国、主要産業界、市民社会、科学界の関係者を集めた協議機関であるCritical Medicines Allianceの報告書公表を発表した1)。報告書は、EUにおける医薬品供給を強化し、不足を防ぐための優先的な行動を勧告するもの。
主な産業上の課題について、医薬品原薬(Active Pharmaceutical Ingredients:API)や原材料の供給が限られた地域に過度に依存していること、EUの製造基盤が浸食されていること、あるいは欧州の産業における競争力や投資が不足していることを指摘している。
Critical Medicines Alliance2)は、2024年1月に設立され、EU医薬品法の改正(2023年4月提案採択)3)を補完するものとして、重要な医薬品の産業的・競争的側面に対処する可能な方法を議論・提案する。
(参考記事:EUクリティカル・メディシン・アライアンスを正式立ち上げ)
ニュースソース
- European Commission: Critical Medicines Alliance Report recommends priority actions to strengthen the supply of medicines in the EU and prevent shortages.
https://health.ec.europa.eu/latest-updates/critical-medicines-alliance-report-recommends-priority-actions-strengthen-supply-medicines-eu-and-2025-02-28_en?mkt_tok=NjM4LVBYUi0zMTgAAAGZUta8eeEnDU6zjx6xMnHyy7gSJ9dXJdWNbE3FkVyJsQ3ZHmymTFYRniKnUSz0N_XIMV5eCJocfv4c4bNxb0gxkABB_gmnBIb__Vp4OQ
(報告書)https://health.ec.europa.eu/document/download/3da9dfc0-c5e0-4583-a0f1-1652c7c18c3c_en?filename=hera_cma_strat-report_en.pdf - European Commission: Critical Medicines Alliance.
https://health.ec.europa.eu/health-emergency-preparedness-and-response-hera/overview/critical-medicines-alliance_en - European Commission: Reform of the EU pharmaceutical legislation.
https://health.ec.europa.eu/medicinal-products/legal-framework-governing-medicinal-products-human-use-eu/reform-eu-pharmaceutical-legislation_en
以下は、報告書の各省ごとの要約(ChatGPTによる)
1. 重要医薬品のサプライチェーンにおける脆弱性の評価
- EMAによる「重要医薬品リスト(Union List)」は、臨床上の重要性に基づくものであるが、製造面の脆弱性までは評価されていない。
- 2024年にHERAが行ったパイロット分析では、構造的・非構造的な供給網の弱点が示された。
- これを踏まえ、アライアンスは「供給脆弱な重要医薬品リスト(Critical Vulnerable Medicines)」の策定を提案。
- このリストは、供給網の地理的集中、サプライヤーの少なさ、製造・輸送の中断リスク等を評価基準として選定される。
- 今後は、定量的・定性的な指標を用いた2段階評価、予測分析手法の導入なども検討されている。
2. 欧州における重要医薬品製造強化のための戦略的プロジェクトへの投資
- 後発医薬品は利益率が低く、アジア諸国(特に中国・インド)への製造依存が進んでいる。
- 欧州域内の製造回帰には、インフラ投資、環境配慮型技術、製造効率の向上などが必要である。
- 戦略プロジェクトは、複数の加盟国にまたがる利益をもたらすものでなければならず、雇用や地域経済への波及効果も考慮される。
II.A. 重要医薬品製造強化のためのEUレベルの財政的インセンティブ
1. EU資金プログラム
- Horizon Europe、EU4Health、STEPなど既存プログラムでは、成熟医薬品の支援は限定的。
- 「重要医薬品のためのワンストップ支援窓口」の創設が提案され、投資促進とリスク低減を支援。
- 支援を受ける企業は、供給危機時にEU市場を優先供給する義務を負う可能性がある。
2. 民間資金
- EIB(欧州投資銀行)や民間金融機関との協調により、高リスクな投資案件への民間資金アクセスを強化。
- InvestEUなどを活用し、インフラ・研究・デジタル化を対象とした資金供給が可能。
II. 国家レベルでの重要医薬品製造強化のための財政的インセンティブ
a.国家補助(State Aid)プログラム
- 新たな国家補助規則の導入が提案され、特に低市場収益製品を対象とするSGEI(一般経済利益サービス)も含まれる。
- IPCEI(欧州共通利益プロジェクト)は、イノベーション志向の支援制度として利用可能だが、SMEには不向きとの指摘もある。
b. 公的資金と単一市場の維持との均衡
- 各国が管理するEU共管資金(例:地域開発基金)も戦略目標に充てるべきである。
- 供給過剰・格差を防ぐため、資金の累積使用規則は明確かつ一貫して適用される必要がある。
c. 人材開発(Skills)
- 製薬業界での技能労働者不足が深刻化しており、ESF+やErasmus+などを活用したスキル戦略が必要。
- EIT Healthが中核となり、カリキュラム設計やスキル需要の把握が推進されている。
III. 緊急在庫と調達戦略の見直しによる重要医薬品の安定供給の確保
a. EU連帯強化のための緊急在庫(Contingency Stock)
- 各加盟国が独自に在庫義務を課しているが、EU全体での調整が不十分で、供給の不均衡や浪費が生じている。
- 欧州レベルでの調整枠組みが必要であり、製品ごとのリスク評価に基づく柔軟な制度が求められる。
- 「未完成品(例:包装前製剤)」の在庫保持も、再配置の柔軟性向上と廃棄リスク低減に有効とされる。
b. 調達基準の見直し(Public Procurement Criteria)
- 多くの加盟国が価格のみを基準とした調達を行っており、これが単一供給者への依存を招いている。
- 供給の安全性、レジリエンス、環境負荷を評価項目に含めた「MEAT基準(最良価格品質比)」への転換が推奨される。
- EU内生産を促すために、明確な選定基準と重みづけをEU法により規定すべきとされる。
c. 共同調達アプローチの更新(Joint Procurement)
- 特に小規模市場や少量医薬品については、単独国家での調達が非効率である。
- EUまたは地域レベルでの共同調達により、需要予測の明確化や安定供給が期待される。
- 調達の競合(例:EUと加盟国の二重入札)を防止するための調整メカニズムが必要である。
Ⅳ. 重要医薬品製造における公正な競争環境(レベル・プレイング・フィールド)の促進
- EU域内と第三国の製造者との間で、環境・社会基準や公的支援に関する不均衡が存在する。
- EU製造者の競争力を維持するため、公共調達において環境配慮型生産へのインセンティブが求められる。
- WTOルールと整合しつつ、域外国製品にも同等の品質・環境基準を課す選択肢の検討が提案されている。
- 欧州委員会による包括的な調査(競争不利要因、規制ギャップ、補助金政策など)の実施が推奨されている。
Ⅴ. 第三国・地域との連携による製薬サプライチェーンの強靭化
- APIや中間体の供給地の集中(特に中国・インド)により、EUは地政学的リスクにさらされている。
- EU以外の国・地域とのパートナーシップ構築が、供給の多様化と回復力強化の鍵となる。
- 協力対象国は、透明性、信頼性、持続可能性の基準に基づき選定されるべきである。
- 今後は、欧州委員会・加盟国・業界が連携し、明確な協定や枠組みを策定する必要がある。
Ⅵ. 国際的な連帯協力の構築と拡大ルートの確保
- グローバルレベルでの連帯と協力も、EU内供給の安定性に寄与する。
- 医薬品供給の地政学的リスクを軽減するため、信頼できるパートナー国と危機時の支援協定(例:相互支援在庫、共同製造)を結ぶべきである。
- ACT-A(新型コロナにおける国際対応枠組み)やEUアフリカ戦略といった既存の国際的イニシアチブも活用されうる。
2025年3月21日