【論文】医薬品へのトランプ関税の影響:医薬品不足と脆弱性評価の必要性

Health Affairs Forefront、2025年3月26日公開記事。著者は、元FDA長官のMark B. McClellanら、デューク大学マクゴリスセンター所属の研究者ら(参考:デューク・マルゴリスセンター ホワイトペーパー「強靭で安全な医薬品サプライチェーンの構築」)。
以下は、論文のやや長い要約。(最後の太字部分、日本への示唆として参考にすべき。)

 

トランプ政権は、医薬品を含む幅広い関税政策を導入・提案しており、国内産業の振興、貿易関係の再構築、地政学的リスクへの対応などを目的としている。医薬品供給網における生産の地理的集中は確かにリスクであるが、関税はその解決策として最適ではない。関税は価格上昇圧力や意図しない結果、特に供給が脆弱なジェネリック医薬品の不足を引き起こし、保険制度や患者に悪影響を与える可能性がある。

このため、関税の代替策として、国内産業基盤への直接投資、税制改革、国内供給業者を優遇する償還制度改革、政府調達での国産品優先などの政策が望ましい。これらは患者ケアに対する悪影響を抑えつつ、政策目標の達成に資する。

薬剤不足の多くは、実際には地政学的・貿易上の問題によるものではなく、米国内の製造拠点における障害などに起因している。より根本的な解決策としては、供給の信頼性や安定的なジェネリック供給を評価基準とする調達契約の導入が挙げられる。

米国では近年、特定のジェネリック医薬品の慢性的な不足が続いており、死亡率の上昇、治療の遅れ、医療費の増加など深刻な影響をもたらしている。これらは主に、製造業者、特にジェネリックメーカーが、供給網の強靭化に投資する余力を欠いていることが原因である。関税はこうした企業にさらに経済的負担をかけ、供給能力の低下を招くおそれがある。

ジェネリックメーカーは価格引き上げが難しい市場環境に置かれており、契約や償還制度が価格調整を困難にしている。結果として価格上昇は抑制されるものの、持続可能な供給のためには長期的には償還価格の調整が必要である。

ブランド医薬品メーカーも関税の影響を受け、製造コスト上昇分を部分的に医療機関や患者に転嫁する可能性がある。生産拠点の米国内移転も求められるが、FDAの審査・認可が必要であり、新拠点の立ち上げには5〜10年を要する。インドや中国以外での製造能力確保も困難であるため、一部企業は製品の製造中止を選択する可能性があり、これが不足をさらに悪化させる。

したがって、関税や他の政策を検討するにあたり、まず医薬品ごとの脆弱性評価を実施すべきである。これにより、供給網の地理的集中度や脆弱な製品カテゴリを特定し、最も効果的な政策介入を選定できる。FDA、国防総省、USP(米国薬局方)などが提供する既存のデータを活用すれば、このような評価の基盤となりうる。

しかし、データには限界もある。たとえば、供給拠点ごとの製造量や米国への供給割合に関する情報が不完全であり、原材料(key starting materials:KSM)に関する情報も乏しい。Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act(CARES法)によりFDAは製造量の報告を義務付けられているが、2023年の遵守率は約53%にとどまっている。

このような背景から、関税に代わる政策として、以下の手段が提案されている:

  • 国内製造基盤への直接投資
  • 国内供給者への優先購入政策
  • FDAによる審査・認可体制の強化
  • 外国への依存が高いKSMに対する新たな政策介入

また、全ての製造工程を国内で賄うことは現実的でないため、Bio-5同盟や医療供給網強靭化法案で提案されている国際協力や貿易協定の活用も重要である。メキシコのような同盟国に対する関税は、供給源の多様化に逆行する恐れがある。

特許品医薬品においても供給網のリスクは存在し、たとえば細胞・遺伝子治療など高度な知財や機密性の高い製品では、より厳格な対外依存回避策が求められる。

結論として、関税政策を導入する前に、医薬品供給網のリスクに関する精密な脆弱性評価を行い、患者ケアに悪影響を与えない最適な政策を選択すべきである。

 

ニュースソース

Thomas Roades (Senior Policy Analyst at the Duke-Margolis Center for Health Policy), et al.: Pharmaceutical Tariffs: Potential Impacts And The Need For Vulnerability Assessments.
Health Affairs Forefront. March 26, 2025  10.1377/forefront.20250325.475695

2025年3月27日
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